ビリルビン酸化酵素は、酸素がビリルビンをビリベルディンに酸化するのを触媒する酵素で、現在臨床検査において、血液中のビリルビンを定量するのに広く用いられている。この酵素は、分子中にタイプ1銅、タイプ2銅、タイプ3銅を1:1:2に含むマルチ銅酵素である。ビリルビン酸化酵素は、ビリルビンの他に種々の化合物を電子供与体即ち基質とすることが出来る。例えば、低分子金属錯体であるフェロシアンイオン(Fe(CN)_6^<4->)も基質となり得る。この性質を利用して、低分子錯体酵素との相互作用を研究した。最初に0.1Mリン酸緩衝液中でFe(CN)_6^<4->を基質として、そのミカエリス定数(Km)とモル活性(k_<cat>)を求めた。Km=4×10^<-3>M、K_<cat>=310sec^<-1>となり、低分子錯体であるFe(CN)_6^<4->は、ビリルビン酸化酵素に対してよい基質となり得る事が判った。そこで、基質であるFe(CN)_6^<4->と構造が類似しているが、電子供与体でないので基質として機能しないCr(CN)_6^<3->を合成し、その阻害反応を調べた。Cr(CN)_6^<3->は基質であるFe(CN)_6^<4->に対して競合的に活性を阻害する事が判った。そして、その阻害定数は3×10^<-3>Mとなり、Fe(CN)_6^<4->のKm値とほぼ同じ値となった。これらの事実はCr(CN)_6^<3->が基質であるFe(CN)_6^<4->の結合部位にほぼ同じ強さで結合していることを示している。 Cr(CN)_6^<3->が基質結合部位に結合する事が判明したので、現在400MHzのNMRを用い、Cr(CN)_6^<4->の常磁性によりブロード化するビリルビン酸化酵素中の残基のピークを同定中である。我々は、ビリルビン酸化酵素の遺伝子のクローニングに成功し、塩基配列を決定し、その一次構造を推定した、この一次構造をすでにX線結晶解析より高次構造が明らかにされている西洋カボチヤ由来のアスコルビン酸酸化酵素の一次構造と比較することにより、銅イオン配位部位及び基質結合部位を推定した。我々は、この一次構造から推定された基質結合部位を、NMRのブロ-ディング結果から確かめようとしている。
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