単素数が17から22までの6種類の直鎖長鎖カルボン酸とキラルな分子2-メチルブタノールとのエステルを合成した。次いで、これら6種類のエステルについてDSC測定を行ったところ、全ての試料について相転移現象が認められた。つづいて、偏光顕微鏡観察を行った結果、融点直下の高温相において、かつてGoodbyらが報告した強誘電性液晶のテクスチャーと類似の組織が観察された。したがって、これらの結果はこれらの試料が十分強誘電性液晶モデル物質となりうる可能性があるとを示しているものと判断して以下の実験を行った。ガラス基盤に金を蒸着して誘電率測定用セルを製作し、これを用いて誘電率測定を行った。その結果強誘電体特有の転移点付近における誘電率の急上昇は認められなかった。しかし、高温相の誘電率の値は、これより低温側の相や高温側の液体相の誘電率の値と比較して大きな値を示し、これは高温相内での大きな分子運動の存在を示唆するものであった。同じ試料を用いて行ったX線回折実験によれば、高温相内では、分子は長軸方向に周期的に配列している事が明らかとなった。さらに、その繰り返し周期は分子長にほぼ等しい事も明らかとなり、分子が層面に対して垂直に位置していると推察された。一方、長鎖分子の横方向の配列についてはややその秩序が乱れている事が明かとなり、前述の結果と合わせて、高温相はスメクチックAないしこれに極めて類似の構造を持つものと判断した。 本年度の研究では強誘電性液晶モデル物質は得られなかったが、ここで合成した試料はスメクチックAモデル物質であると考えられ、この結果は平成7年3月(京都)の日本化学会で発表する予定である。
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