本年度は、海洋における栄養の一次生産者の代表である珪藻の人工飼育と、珪藻中の主要及び微量元素を最新の多元素分析法であるPIXE法で定量した。 珪藻には岩手県沖の太平洋で採取後、純粋培養され、稚魚や稚貝の餌として利用されてるPhaeodactylum sp.を用いた。Phaeodactylumは縦約100μm、幅約20μmの紡錘形である。PIXE法では分析に供する試料量が100mg程度で十分なため、試験管レベルの培養で十分であった。培養装置は、恒温式循環水槽に培養容器のネジ付き試験管を立て、上から蛍光灯を用いて照射できるよう自作した。培養液は海藻用栄養強化海水(PES)20ml、温度は22℃、照度は約2000luxで12時間明暗とした。Phaeodactylumはこのような簡単な培養条件下で10日で70倍に増殖させることができ、微細藻類の人工飼育の目標を達成した。 珪藻は一定期間培養し、上澄み液を10〜15ml取り出し、孔径5μmのニュークリポアフィルターで吸引ろ過し、乾燥することでPIXE用の照射試料を得た。このフィルターを日本アイソトープ協会仁科記念サイクロトロンセンターで3MeVのプロトンビームを照射しPIXE分析を行った。その結果、珪藻中に比較的多量にあるNa、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Caから微量のMn、Fe、Cu、Zn、Pb、Srが20分ほどで定量できた。試料量は100mg程度で微量の微細藻類の多元素分析の目標を達成した。 生体必須元素で、生体中に微量しか含まれていない亜鉛に着目し、亜鉛を1ppm程度添加した培養液中で珪藻を飼育した。一定期間飼育後の珪藻中の亜鉛を含む15元素を定量した。その結果、珪藻中の亜鉛含有量は培養液中に亜鉛を添加しなかった場合よりも増加していること、飼育期間によって変化すること、死骸にも亜鉛が含まれることなどの新しい知見が得られた。
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