計画とは幾分異なって研究が進行した。以下に述べる二点が新たに見つかった。ポリアニリン膜における電位と導電種の濃度との関係をスペクトロメトリーにより測定したところ、大きなヒステリシスの変化速度に依存しなかったために、不可逆性が重要な問題になった。酸化方向の膜の変化では、電位の変化速度に依存しなかったため、平衡に近い状態が得られた。電位と導電種の対数濃度との関係はネルンスト式で表される直線からはずれ、ある電位で急激に折れ曲がることが分かった。この電位はパーコレーション閾値電位と考えられ、電極と電子的につながった酸化体と電子的につながらない酸化体との線形結合によってネルンストプロットを説明した。もう一点は、酸化電位が不十分であるとき、導電層の成長には時間的遅れの伴うことである。また、低電位では拡散的に導電層が成長し、高電位では伝播機構によって成長することが分かった。 ポリアニリン膜の導電層の成長に関する動的性質の解明だけではなく、平衡の性質にも注意を払いながら測定を行なった。その結果、単純なネルンスト式では表せない結果が得られた。これまで成長速度の変化のみから見積もってきたパーコレーションの性質を、静的測定であるネルンストプロットの急激な変化に結びつけることができたのは、横道に逸れた故の宝である。従来、導電性高分子膜のネルンストプロットから得られた電子数が1より小さいのは、数個の活性点のうちの一個が電極反応に関与すると解釈されていた。これは、多核錯体の相互作用の理論的予測と矛盾する。パーコレーションの考え方はこの矛盾を解決している。
|