アルドン酸として2-アミノ-D-グルコン酸を用い、アルドン酸-ホウ酸二元系、アルドン酸-金属イオン二元系、さらにアルドン酸-ホウ酸-金属イオン三元系について、電位差滴定法により錯形成平衡を検討した。これらの多元系錯体の構造については、^<13>Cおよび^<11>BNMRから知見を得た。金属イオンとして、Ni(II)、Zn(II)、Cd(II)、Pb(II)イオンを用いたが、三元系錯体を形成したことにより生ずる新たな安定化はCd(II)イオンが最大になることが明らかになった。これは、アルドン酸の立体配置が、ホウ酸と二元系錯体を形成することにより固定され、金属イオンのイオン半径を識別することができるようになったためと考えられる。一方、ホウ酸の代わりにゲルマニウム酸を用いた三元系では、金属イオンの顕著な選択性は示さなかった。これは、五配位のゲルマニウム酸の幾何構造の変化によって、金属イオンの大きさに適合するようにアルドン酸の立体配置が変化するためと解釈できる。さらにこの結果からCb(II)イオンとPd(II)イオンを比べると、2-アミノ-D-グルコン酸との二元系ではPd(II)イオンの方が安定に錯形成するが、ホウ酸を加えた三元系では、その安定度が逆転することがわかった。このような、三元系錯体を形成することにより出現する新たな安定性は、本研究で目的としている新たな選択性の構築である。生成した三元系錯体は、pHを上げることにより金属イオンを容易に解離するので、分離、濃縮といった分析化学的な実用面からも有用であり、幅広い発展性を持っていることが明らかになった。
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