安息香酸自身の分配平衡に対しては、1-オクタノール-ベンゼン、2-オクタノン-ベンゼン混合溶媒による抽出を行い、オクタノール、オクタノンそれぞれ一分子が安息香酸の単量体に溶媒和することを明らかにし、この平衡を考慮することにより、混合溶媒中のオクタノールおよびオクタノンの濃度と安息香酸の分配定数と二量化定数の関係を定量的に説明してきた。(主に平成6年度) この結果に基づいて、これらの混合溶媒を用いて安息香酸による銅の抽出を研究するために、まずこれらの個々の溶媒による抽出を行った。混合溶媒の有効性を比較するために非常に有用ではあるが、環境問題からその使用が自粛されつつあるクロロホルムを用いた場合の安息香酸による銅の抽出に関しても詳細に抽出平衡を解析した。その結果、クロロホルムがオクタノールやオクタノン程ではないが溶媒和することが抽出性を高めるのに重要な働きをしていることがわかった。そこで、ベンゼンにオクタノールやオクタノンを添加することにより適度に溶媒和性を持たせ、ベンゼンがもともと持っているベンゼン中では安息香酸銅(II)錯体が二量化しやすいという効果もあまり落ちないような混合溶媒の調製が可能であると判断できる結果を得た。 これらの結果に基づいて、安息香酸自身の分配平衡を研究した場合と同じ組成の混合溶媒(1-オクタノール-ベンゼン、2-オクタノン-ベンゼンそれぞれII種類)を調製し、それぞれの混合溶媒を用いて安息香酸による銅(II)の抽出を行い、それぞれの系について詳細に抽出平衡を解析した。いずれの混合溶媒系においてもある組成の混合溶媒は、ベンゼン、1-オクタノール、2-オクタノンばかりでなく、クロロホルムよりも抽出性がよいことを示すことができた。また、安息香酸(HA)と抽出種(CuA_2)との分配定数と混合溶媒の間に定量的関係が存在することも明らかにした。
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