本年度は微量金属イオンのスペシエーションのための基礎的検討を行った。その結果、既存の測定法について問題点の存在が明らかになったため、そのいくつかについての解決を試みた。先ず、本研究で測定を予定している9種のイオンの内、鉛については、既存の吸着濃縮法を用いたカソ-ディックストリッピングボルタンメトリーでは、環境試料水中の濃度を直接定量するためには感度が不十分であり、又、共存元素の影響も大きいことが判明したので、新たにカルセインブルーを用いた吸着濃縮法を開発した。この方法で検出下限0.04nMを得、各種ミネラルウォーターや河川水中の鉛濃度(0.2〜4nM)を簡便に定量できた。又、微小な鉛の錯化容量の測定にも成功した。次年度も既存法の持つ問題点の解消、あるいは新規な方法を開発し、スペシエーションへと応用する。測定法以外の問題点として、試料の前処理法がある。labile量とinert量を求める際、溶存有機物を分解する必要があるが、金属イオン濃度が極めて低い場合には、汚染の少ない条件下で前処理を行わなければならない。この際、従来の酸や酸化性物質を用いた分解法では、汚染にさらされる機会が多いため、本研究では低圧水銀ランプを用いた紫外線照射法を考案した。この方法によれば、試料を石英ガラス容器に密閉した状態で前処理が可能なため、汚染される機会が極めて少ない。 イオンをinertな状態にしてしまう溶存有機物としてフミン酸、アミノ酸等が考えられているが、本法によりフミン酸並びに多くのアミノ酸が良好に分解できることが分かった。これにより、試料を汚染させることなく前処理が可能となり、ボルタンメトリーにより微量金属イオンのスペシエーションを行うための基本的な手順が構築された。これらの手法を効果的に用いることにより、次年度のスペシエーションに関する研究の発展が期待される。
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