本年度は金属イオンの天然水中における具体的な挙動を把握するために必要な、錯化容量並びに条件安定度定数の測定をフミン酸について行った。天然水中の金属イオンの挙動を知るうえでフミン酸との相互作用は極めて重要であり、条件安定度定数並びに錯化容量を同一の試料に対して複数の金属イオンについて測定することが重要な課題であった。本研究で用いられている吸着濃縮法を利用したストリッピングボルタンメトリーは現存する分析法の中では上記の目的を簡便かつ正確に実行できる最良の方法であると言える。金属イオンとして銅、鉛並びにニッケルを選び、吸着濃縮のための錯形成剤として8‐キノリノール、カルセインブルー並びにジメチルグリオキシムを各々用いた。Irving‐Williamsの系列より、銅イオンはフミン酸との錯形成能力が最大であると考えられ、逆に鉛は小さいと思われる。ニッケルはその中間に位置し、フミン酸の錯形成能を知るうえで、この3種イオンが系統的に必要であると思われる。錯化容量並びに条件安定度定数の測定はいわゆる金属イオン滴定を用いて行った。フミン酸と金属イオンとを共存させ、平衡に到達させるために2日間静置し、その後測定と解析を行い、各々の金属イオンについての数値を求めた。1ppmのフミン酸について、銅、鉛並びにニッケルについての条件安定度定数の対数値は、各々16.4、11.5並びに16.5であった。また、錯化容量は10.2、83.9並びに23.3nMであった。銅とニッケルについては低分子量の錯形成剤との相互作用と大きくは異なっていないが、鉛についての錯化容量が極めて大きな値となっている点が注目される。今後の方向としては、予定しているモリブデン、アルミニウム、バナジウムなどについて同様な測定・解析を行い、比較検討したうえで、バクテリアあるいはプランクトンの生産物などとの相互作用の検討を行う。
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