本年度は天然水中の金属イオンに対して生体が示す応答を物理化学的な基準を設けて比較するための検討を行った。天然水中の高分子量の有機配位子としてフミン酸を取り上げ、それとの錯化容量並びに条件安定度定数を、吸着濃縮ボルタンメトリーを用いて求める際、フミン酸並びに添加配位子をL_1並びにL_2とし、活性錯体をM_<lablle>とすると、フミン酸と金属イオンが1:1型錯体を形成する場合、 [M_<lablle>]/[M_<L1>]=[M_<lablle>]/C_<L1>+α′/(C_<L1>K′_<ML1>) が成立する。ここでC_<L1>、K′_<ML1>はフミン酸の錯化容量並びに金属イオン錯体に関する条件安定度定数、α′(=α_M+α_<ML2>)は無機並びに添加配位子の副反応係数の和である。ここでα_<ML2>=K′_<ML2>[L_2]^2と表され、logα_<ML2>としての可変な領域が検出窓と呼ばれている。logα_<ML2>を実験的に変化させることで、金属イオンとフミン酸の相互作用の大小に応じたC_<L1>を求められることになる。ニッケルイオンを例とした場合、添加配位子としてのジメチルグリオキシムの濃度を50、200、500μMと変化させると、pH8.5におけるlogα_<ML2>は4.73、5.93並びに6.73となる。これらの条件下でC_<L1>は14.1±3.3、8.7±1.8並びに8.3±1.0nM/ppM、又、logK′_<ML1>は、12.2±0.4、13.6±0.5並びに14.5±0.2と得られた。logα_<ML2>の増加に応じてC_<L1>が減少し、K′_<ML1>が増加する傾向が見られたが、これは、フミン酸中の官能基の錯形成能力が広い範囲に及んでいることが検出されたと考えられる。logα_<ML2>を用いて金属イオンに対する生体応答を包括的な数値に変換できる可能性を持つことが、フミン酸について始めて示唆されたと言える。
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