まず、微量金属イオンのスペシエーションのための基礎的検討を行い、新たにカルセインブルーを用いた吸着濃縮法を開発した。この方法でカドミウム並びに鉛につき検出下限0.05並びに0.04nMを得、各種ミネラルウォーターや河川水中の濃度(0.2〜4nM)を簡便に直接測定できた。又、labile量とinert量を求める際、予め溶存有機物を分解する必要があるが、金属イオン濃度が極めて低い場合には、汚染の少ない条件下で分解処理を行わなければならない。そこで、低圧水銀ランプを用いた紫外線照射法を考案した。その結果、電気化学測定を妨害する芳香族化合物、フミン酸並びに多くのアミノ酸が、非汚染環境で良好に分解できるようになった。更には、金属イオンに対して生体が示す応答を物理化学的な基準を設けて比較するための検討を行った。天然水中の配位子としてフミン酸を取り上げ、その錯化容量(C_<L1>)並びに条件安定度係数(K'_<ML1>)を、吸着濃縮ボルタンメトリーを用いて求めた。この際、吸着濃縮のための配位子の種類並びに濃度を変化させることで、様々な検出窓(logα_<ML2>)を設定することが可能であり、相互作用の大小に応じたC_<L1>を得ることができる。例えばニッケルイオンについて、pH8.5におけるlogα_<ML2>を4.73並びに6.73と変化させると、C_<L1>が14.1±3.3、8.7±1.8並びに8.3±1.0nM/ppM、又、logK'_<ML1>は、12.2±0.4、 13.6±0.5並びに14.5±0.2と得られた。logα_<ML2>の増加に応じてC_<L1>が減少し、K'_<ML1>が増加する傾向が見られたが、これは、フミン酸中の官能基の錯形成能力が広い範囲に及んでいるためであると考えられる。logα_<ML2>を用いて金属イオンに対する生体応答を包括的な数値に変換できる可能性を持つことが示唆されたと言える。
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