研究概要 |
平成6年度は,下記の二つの項目について検討した. (1)分散膜の表面状態の観察 分散膜中では直径約10nm程度の銀微粒子が,幾つか集まって塊として分散していることが分かっている.SERS活性な膜では多くの微粒子の塊が見られるのに,塊の無い膜では殆ど増強効果は見られないので,この塊が表面増強効果の発現に重要な役割を演じている.微粒子の大きさ及びその集合状態は,微粒子を分散させる前のセルロース膜中のポア(穴)の大きさ,分布状態に依存する.分散前の膜ではこのポアに水が含まれているので,含水率を調べるために本科研費により購入したFT-IR装置によりIRスペクトルを測定したが,膜中に含まれる水の吸収はブロードで意外に弱く定量するのは困難であった.しかしATR法により膜の表面近傍の状態を,セルロースアセテートのエステル結合に着目して観察できることが,分かった.分散膜は対向拡散法によって作るがこの過程で,セルロース膜は水酸化ナトリウム溶液と接触するため,アセチル基が取れ,水酸基生じ膜中への試薬の透過性に影響を与える考えられる.現在のところ拡散時間が短い(2,3分程度)時は,影響はないが,それ以上になると,アセチル基が取れることが分かった.この詳しい検討は次年度に行う予定である. (2)薬物の検出 SERSスペクトルの測定を試みた薬物はシンコニジン(抗マラリア剤,解熱剤),レゼルピン(精神安定剤),テオブロミン(利尿剤),アミノピリジン(麻酔剤),クレアチニン(尿中に含まれる物質)である.このうちテオブロミンについては,10^<-6>M溶液からもSERSバンドが観測できた.またアミノピリジンは,10^<-4>M溶液までしかSERSは観測できなかったが,良好なスペクトルが得られた.
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