研究概要 |
今年度は最適分散膜の調製のための膜の状態分析を行った。酢酸セルロース膜には細孔がありその中には水が捕らえられていて,水の量により細孔の数,大きさが決まる。水のIR吸収強度から細孔の数,大きさを見積もることを試みた。しかし真の量を見積もるのは困難であった。そこで赤外分光法による検討の方向を,膜中の細孔から表面状態の観察に変更した。SERS測定時に分散膜に試料溶液を浸透させるが、この時溶液は表面を通過して銀微粒子に到達する。従って,溶液の浸透し易さは表面状態にも依存する。高分子膜等の表面を調べるには全反射赤外分光法(ATE-IR)が有効であるので,この方法で分散膜の表面観察を試みた。スペクトルの測定には本研究費で購入した島津IR408赤外分光光度計を用い,水平ATR測定装置を使用して行った。その結果,対向拡散時に酢酸セルロース膜の水酸化ナトリウム水溶液に触れる面はエステル結合が僅かに加水分解され,この面の親水性が増すが,硝酸銀水溶液に触れる面は全く変化を受けないことが分かった。 今年度は薬物以外に,洗剤の検出を試みたが,SERSの観測はできなかった。そこで以前検討した薬物の内まだSERSバンドの帰属に問題が有るニコチン酸(水溶性ビタミンB)とテオブロミン(利尿剤)を再検討をした。その結果,ニコチン酸に関しては膜中でnicotinate anionの他にzwitter ionも僅かに存在していることを明らかにした。テオブロミンに関しては,重水素化物の赤外とラマンスペクトルを測定しこれを参考に,吸着配向を決めるのに重要なNH結合の関与する振動の帰属の再検討を行った。この帰属を基に,テオブロミンが銀表面でどのように吸着しているかの検討は現在進行中である。
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