本研究の目的はイネ染色体上に現れるタンデム反復配列TrsAのマッピングと染色体上での存在様式の解析である。これまでにイネ染色体上の2つの異なる遺伝子座trsA1及びtrsA2に存在するTrsAクラスターの両側に、TrsAの転移/挿入と修復によって生じたと考えられる重複配列が存在するという結果を得た。この内trsA2がインディカ型のイネ染色体に特異的に存在することに着目して、ジャポニカ型のイネ染色体DNA上のTrsAの挿入標的配列(trsA2)をクローン化し解析したが、意外にも標的配列自身が散在性反復配列であることが明らかになった。この配列はハプロイドあたり約10^4コピー存在し、塩基配列の解析から転移性遺伝因子(新奇レトロトランスポゾン)の可能性が出てきた。この結果はタンデム反復配列が転移によって分散したのではなくTrsAの配列に転移性遺伝因子が入り込んだという可能性を示唆するものである。さらに我々は野生稲O.meridionalisの染色体に対して、TrsAをプローブとしたFISHを行ったが、全12対の染色体のうち、第12以外の11対の染色体それぞれの長腕又は短腕側のテロメア近傍にTrsAが局在すること、その内の1対の染色体(第4)では例外的にその介在部近傍にも局在することをあきらかにした。以前の栽培稲の結果とも併せて、TrsAが高度に増幅されて存在する染色体とその個数は調べたイネの系統によって固有であり、唯一の例外(O.meridionalisの第4染色体)を除いてサブテロメア領域に存在することを示している。サブテロメア領域に存在するTrsA配列の位置が、我々が調べたイネの各染色体のどちらか一方の端、即ち第1〜4染色体の短腕と第5〜12染色体の長腕の端であることは、各染色体に極性があることを示唆する。
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