研究概要 |
分子進化においては,1つの遺伝子のある塩基(またはアミノ酸)座位に突然変異が起こるとタンパク質の機能を失うが,対応したある座位に再び突然変異が起こると機能が回復する例が報告されている.このような2つの座位間の相互作用を互助的相互作用という.平成6年度は,互助的相互作用による分子進化を集団遺伝学的に考察した. N個の個体からなる二倍体生物の集団を考える.2つの座位に着目し,第1(2)の座位では野生型A_1(B_1)から突然変異型A_2(B_2)へ不可逆的に突然変異が起こるとする.自然淘汰の様式としてはA_1B_1,A_1B_2,A_2B_1,A_2B_2の相対適応度を1,1-s,1-s,1+_<22>とし,s>0かつs+s_<22>>0を仮定する.この淘汰様式は,野生型(A_1B_1)にそれぞれ1個の突然変異(A_1B_2,A_2B_1)が起こると有害であるが,二重の突然変異(A_2B_2)により有害効果が軽減,消失,有利に転換されることを意味している. A_2B_2が集団中に固定するまでの待ち時間の長短を考察することによって,互助的相互作用による進化の一般性を議論することができる.ここでは,平均固定待ち時間の解析を拡散モデルの数値解析を中心として行い,諸パラメータ依存性等を明かにした. 一連の数値解析の結果,平均固定待ち時間を最小にするs(A_1B_2,A_2B_1の有害度)は0ではないことが分かった.すなわち,中間状態(A_1B_2,A_2B_1)にある程度の有害性が存在した方がA_2B_2の固定が速いことになる.一見逆説的に思われるこの現象を弱突然変異極限における漸近解析とコンピュータ・シミュレーションを用いて考察した.
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