チャイニーズハムスター培養細胞より、非許容温度において、S期で細胞分裂周期を停止し、DNA合成が低下し、姉妹染色分体交換を高発する温度感受性変異株tsTM4を分離した。リン酸カルシウム共沈法により、ヒトゲノムDNAをtsTM4細胞に導入して得られた2次変形質転換株より、tsTM4の変異を相補するヒトゲノムDNAを分離した。分離したヒトゲノムDNAをプローブとしてcDNAを分離した。ゲノムDNAおよびcDNAの塩基配列を決定したところ、得られた遺伝子はRNA polymeraseII largest subunit(RPIILS)であり、29個のエクソンからなり、ゲノムDNAで32kbにわたって存在した。RPIILSを座乗するヒトゲノムDNAをtsTM4に導入したところ、細胞分裂周期は正常に復帰し、姉妹染色分体交換の頻度は正常となった。この結果より、RPIILSの変異が姉妹染色分体交換の誘発やDNA合成に関与することが明らかとなった。α-アクチン、ユビキチン、細胞周期遺伝子cdc2、cdk2やRPIILSそれ自身をプローブとして、RPIILSの変異の転写活性におよぼす影響をノーザンハイブリダイゼーションによって調べたところ、tsTM4の転写活性は非許容温度においても正常であった。この結果より、RPIILSの変異は転写以外の機能に関係していると考えられる。RPIILSの機能解析の一環として突然変異部位を同定するため、チャイニーズハムスターのRPIILS cDNAを分離し、全塩基配列を決定した。他の姉妹染色分体交換多発変異株tsTM18の欠損を相補するヒト遺伝子を分離するため、ヒト正常細胞との細胞融合により、ヒト染色体の小断片のみを保存し、形質が正常となった雑種細胞を分離した。雑種細胞よりヒト染色体断片を取り除くと、雑種細胞は変異株の形質を示すことから、このヒト染色体断片の中に姉妹染色分体交換の誘発をおさえるヒト遺伝子があることがわかった。
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