エゾアザミテントウとヤマトアザミテントウは共にアザミ食だが、前者は渡島半島を除く北海道に分布し、後者は渡島半島南部と本州に分布する。渡島半島のくびれの部分には、アザミが豊富に自生するにもかかわらず、アザミを食べるテントウムシが全く分布しない地域がある。本研究では、この地域に分布するアザミの性質の違いがテントウムシの分布空白域の存在と何らかの関連を持つ可能性が高いという仮定の下に調査を行った。その結果、エゾアザミテントウムシは狩場山系以北に優占するチシマアザミを、ヤマトアザミテントウは大野平野とその周辺域のみで優占するミネアザミを加害し、渡島半島に広く分布し、最も優占しているマルバヒレアザミからは1例を除きアザミ食テントウは発見されなかった。また、エゾアザミテントウ(以下エゾと略記)とヤマトアザミテントウ(ヤマトと略)のチシマアザミ、ミネアザミ、マルバヒレアザミにたいする選好性と幼虫の発育状況を飼育条件下で調査したところ、エゾもヤマトもチシマアザミとミネアザミをマルバヒレアザミよりも好み、この傾向は統計的に有意であった。幼虫の生育もマルバヒレアザミ上では有意に低下した。さらに、北海道大学圃場内に設置した網室内への放虫実験の結果も、産卵は8割以上がミネアザミに集中し、そのうえ、ミネアザミとチシマアザミ上で孵化した幼虫はそれぞれのアザミを食べて生育したが、マルバヒレアザミ上で孵化した幼虫のほとんどは、ほとんど摂食することなしにマルバヒレアザミを放棄した。以上の結果から、渡島半島中部におけるアザミ食テントウの分布空白帯は、その地域に優占するマルバヒレアザミにたいするテントウの低い寄生適合性によって形成・維持されていると結論される。
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