ヤマトアザミテントウの資源利用の適応戦略と寄主植物および天敵との種間相互作用が、本種の個体群動態の決定に大きな役割を果している。本種のメス成虫は繁殖期に産卵の対象となるアザミの株の間を頻繁に移動しながら、産卵密度の低い株を産卵場所として選んでいる。また、各株で生育した子供の生涯適応度は密度依存的に低下する。その結果、メス成虫に特有の産卵行動(産卵場所選択)が繁殖成功度を高める適応的な戦術である。このような産卵戦術(産卵場所の選択および卵吸収)に対する淘汰圧としての天敵と寄生植物の作用の違いにより、個体群の安定性が変化する。天敵は季節の前半に働くので、天敵の作用が強い場合、早生まれの個体の死亡率が高くなり、幼虫密度が低く押さえられるためにアザミの食害レベルは低く保たれる。そのため、資源量の急激な低下や質の悪化あるいは誘導防御反応は起こりにくくなり、遅生まれの個体に対する植物の負の効果は小さい。適応度は早生まれの個体よりも、天敵の作用を受けない遅生まれの個体の方が大きくなる。そこで、遅生まれの個体に対する投資(産卵期間の延長)が、繁殖成功度の増加に繋がる。産卵場所選択や卵吸収は産卵期間が長い場合に有利に働くので、その効果が十分に発揮される。その結果、個体群の安定化はより促進される。逆に、天敵の作用が弱い場合は、早生まれの固定の死亡率が低くなり、幼虫密度の増加にともない食害が顕著になる。そのため、量や質の低下や誘導防御反応が生じるので、その影響を直接受ける遅生まれの個体の適応度は大幅に低下する。このような生息地では、淘汰は早生まれの個体に対する投資(産卵期間が短くなる)をより大きくするように働く。そこでは、産卵場所選択や卵吸収はむしろ不利となるので、個体群の安定化は十分に達成されなくなる。
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