七北田川河口に位置する蒲生潟と名取川河口に位置する井戸浦潟において、干潟に堆積する沈殿物をセジメント・トラップで採集・分析し、同時に干潟の底生動物のバイオマスと底質を調査することにより、次の結果が得られた。蒲生干潟への沈殿有機物の量は井土浦干潟よりも多く、そのC/N比の平均値は9.2で、井土浦干潟の沈殿有機物のC/N比(12.7)よりも有意に小さい。この結果から、蒲生潟沈殿有機物は、C/N比の小さい、易分解性で栄養価の高い植物プランクトンのデトリタスを多く含み、井土浦潟ではC/N比の大きな、難分解性の陸上維管束植物由来のデトリタスをより多く含むことが予想される。事実、干潟沈殿物のクロロフィルaの含有率を比較すると、蒲生干潟沈殿物でその含有率が高い結果が得られた。さらに蒲生干潟に生息するゴカイの炭素・窒素の安定同位体比からも、ゴカイが植物プランクトン由来のデトリタス食べていることが示唆された。したがって、蒲生潟に沈殿する大量で栄養価の高い懸濁有機物が、蒲生干潟の底生動物(優占種ゴカイ)の大きなバイオマスを支えていることが分かる。蒲生潟は袋状の潟で奥部に水が常に停滞しているの対し、井土浦潟では停滞水はみられず、潟奥部停滞水中での植物プランクトンの生産が蒲生潟の底生動物の高生産を支えている。一方、蒲生潟においては、沈殿堆積物の量が多い奥部ほど、ゴカイのバイオマスが小さく、底質のEhが低いことが分かった。ゴカイは、巣穴を上水で潅水することにより好気的に保つことができ、底質の底Eh・底酸素に対しては強い耐性を持つ。しかし蒲生潟では易分解性有機物の沈殿量が極めて多く、そのため夏期には底質中の微生物の高い酸素消費活性により、夜間には上水までもが低酸素となり、そのことが奥部ゴカイのバイオマス低下の原因と考えられる。
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