七北田川河口に位置する蒲生潟と名取川河口に位置する井戸浦潟において、干潟に堆積する沈澱物をセジメント・トラップで採集・分析し、同時に干潟の底生動物のバイオマスと底質を調査することにより、次の結果が得られた。両干潟は地理的に近く、地形も類似しているためそこに生息する底生動物の種類組成は極めて類似しているが、優占する底生動物が異なっており、また底生動物の2次生産力は蒲生干潟の方が大きい。蒲生干潟と井土浦干潟は塩分の変動範囲はほぼ同じであるが、底質の粒度組成は蒲生干潟は砂質、井土浦干潟は泥質で極めて異なっており、底質の粒度組成が優占動物種の違いの原因のひとつと考えられる。蒲生干潟と井土浦干潟に沈澱してくる堆積物を比較すると、蒲生干潟には底生動物の餌としての有機縣濁物が多く沈澱しており、しかもC/N比が低く栄養価の高い植物プランクトンおよび植物プランクトン起源の易分解性有機物の含有率が高い。堆積有機物の量と質の違いが蒲生干潟の底生動物の高生産を支えている。井戸浦潟と蒲生潟の地形を比較すると、井土浦潟は奥部が貞山運河に開放しているに対し、蒲生潟は奥部が閉じて袋状となっており、奥部が深い地形のため潟水が低潮時でも奥部に滞留している。蒲生潟奥部停滞水では、底泥からの栄養塩の回帰と適度な海水交換のため植物プランクトンの高生産が維持され、それが干潟堆積有機物の供給源となっている。そして、蒲生干潟では大量の易分解性有機物の堆積・分解のため、底質が強還元状態となり、そのような環境に耐性の高いゴカイが優占し、ゴカイの高生産が維持されることになる。しかし、蒲生干潟では夏期には奥部の方が、底生動物のバイオマスが減少する。奥部では易分解性有機物の過度の堆積のため、底質のEhが低下して硫化水素が発生し、奥部停滞水の夜間の低酸素とあいまって、ゴカイの生産を阻害するようになるものと考えられる。
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