研究課題/領域番号 |
06640815
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (00177750)
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研究分担者 |
平井 啓久 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (10128308)
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キーワード | 遺伝的変異 / ミトコンドリアDNA / 地域個体群 / female phylopatry / 電気泳動法 / 群分裂 / 地域分化 |
研究概要 |
今年度は新たに分布の分断が著しい東北地方の地域集団について調査を広げることができた。制限酵素の切断パターンにみられる多型についてミトコンドリアDNA変異を検索した結果、前年度までの結果に加えて次のような知見を得ることに成功した。 1.北関東から東北全域の広範囲に分布するミトコンドリアDNA変異には、他所に比べて著しく類似性が高い。 2.東北地方では例外的に岩手県五葉山地域個体群に特異な変異が存在する。 3.地域個体群内のミトコンドリアDNA変異性は一般に低いレベルにあり、多型が認められる場合には、他所から移入した可能性が高いオトナオスの関与する事例が多い。 このような結果が得られたため、当初計画していたランダムプライマーを使った核DNA多型検索を延期し、ミトコンドリアDNAの塩基配列決定による結果の確認を優先させることにした。現在、可変部位をもつD-ループ領域の配列比較に着手し、制限酵素切断パターンから得た結果との照合を進めている。予備的な分解では、両者の間に強い相関が観察されつつある。生息地の分断隔離が現在では明瞭で、局所的には絶滅の危機があるにもかかわらず、東北地方の各所のニホンザルがミトコンドリアDNAに高い類似性を示す原因は、移住や個体群サイズといった地域個体群の繁殖構造に関係したパラメータの問題だけでは説明しきれない。東北地方の個体群は、最終氷期以降に南から分布拡大した祖先の末裔であり、過去100年あまりの狩猟圧によりサイズを急減させた可能性が高い。従って、本研究は、こうした遺伝的変異の分布や多様性の規定要因には通常重要視されている人口学的ないしは社会生態学的特性だけでなく、対象種の歴史ないしは進化的背景の理解が必要であることを強く示唆する。
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