本研究は、複雄のニホンザルの群れ内において、劣位雄の繁殖成功度が比較的高いという現象を、行動の直接観察および生殖生理学的分析、DNA父子判定により解析しようとするものである。1.性行動の観察は主として昨年10月から、本年1月まで、京都大学霊長類研究所野外放飼場集団「若桜」群について行った。行動観察の結果は、優位雄と対比して、劣位雄は(1)雌に対する接近を、優位雄に干渉される。(2)しかし、より積極的に接近することにより、交尾の機会をつくり、集中的にマウンティングする。(3)集中マウンティングの機会がないときには、場所を移動し、再度マウンティングの機会をつくる。集中マウントの後には必ず射精する。(4)結論的には、野性群に較べ、優位雄からの干渉が強い放飼群でも、劣位雄は配偶の各段階の行動を随時変えていくことで、雌との交尾の機会を得ているといえる。2.生殖生理学的基礎的分析からは、(1)非授乳雌の排卵機能は、交尾期の初期にすでに増大しており、その多くは、最初の排卵で妊娠する。(2)多くの妊娠雌は、妊娠中の7-9週まで、連続的に発情状態を示した。(3)その結果、交尾期の中期までずっと高い頻度の交尾が見られた。(4)なお雄についても、血液中のtestosteroneの濃度が、交尾期初期に頂点になるように増加すことが確認された。さらに3.授乳と排卵の関係を調べるため、交尾に直前に乳児を失った個体の性行動と、ホルモン動態を調べた結果、授乳刺激が除去されてから、約30日で交尾を始め、約50日で排卵することがわかった。 なお、新生児の父子判定は、95年の出産期を待たねばならない。
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