江戸時代に中国から日本に入ってきた金陵辺と呼ばれる東洋ラン(金陵辺)と東洋ミツバチの一亜種である日本ミツバチの間には、その送粉に関して特異的で緊密な一対一の対応関係が成立している。この原因を究明することは動物と植物の共進化の解明に大きな貢献を果たす。 金陵辺よりその花香を吸着剤に採取した。それを熱脱着法によりガスクロマトグラフ質量分析計に導入分析することにより、構成成分の同定をおこなった。また花香成分を各種の液体クロマトグラフィーにより分離精製し、生物検定を組み合わせることにより、活性画分の特定をおこなった。特に生物検定法については検討を加え、簡単でしかも結果がクリヤーに出るプラスチックバッグ法を新たに開発した。ペンタン-エーテル系の溶媒を使ったシリカゲルカラムの結果活性は100%エーテル溶出画分に存在した。臭素付加反応を使った官能基試験の結果活性は消失したため、誘引活性成分は二重結合を持つことがあきらかとなった。最も精製の進んだ画分のGC-MS分析および分取GCの結果、誘引活性成分候補としてリナロールオキサイド(LO)が浮かび上がってきた。市販のLOを使っての生物検定の結果、LOは10ngでも誘引活性を示した。さらに日本ミツバチが仲間を蜜源へと誘引するときに腹部背面を露出しナサノイフフェロモンを放出するが、そのナサノフ腺抽出物のGC/MS分析を行ったところLOの存在が確認された。野外における生物検定はまだ行われていないが、ラン(植物)が個体数の多い社会性のミツバチ(動物)の仲間を呼ぶための信号であるナサノフ腺フェロモンをうまく利用して報酬無しに送粉者を集め花粉の媒介に利用している可能性が非常に高い。
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