研究概要 |
今年度は侵入の大域的伝播に関する数理的研究として,以下の2つの問題を取り上げ解析を行なった. 1.我々はこれまで侵入が近距離拡散と同時に長距離飛翔によって行なわれる階層的拡散について理論的な研究を行なってきたが,この理論の妥当性を見るために,1940年より米国東部で侵入が開始されたHouse Finchに関する詳細なデーター(Christman Cencus Count)に応用し,分析を行なった.まず,数理モデルの解法に使われた近似理論の妥当性を見るために,計算機シミュレーションを行ない,理論式の適用限界などについて多角的に分析した.これにより,侵入速度に及ぼす近距離移動と遠距離移動の寄与を分離すると同時に,両者の相乗効果について定量的な考察を行なった. 2.侵入種の分布域の拡がる過程を確率セルオートマトンモデルを用いてモデル化し,分布の先端が進む速度を定式化した.侵入種の拡がる速度は,従来,拡散方程式を用いて調べられてきた.しかし、現実の生物の生息環境はパッチ状に連なっている場合が多い.パッチ間の移動が確率的に起こると考えると,分布の先端は浪打ちながら進んでいく.波を形成することにより,進行速度が,直線的に進む場合と比較して約2倍の速さになることを,計算機シミュレーションにより見い出した.ついで,これを数理モデルを用いて理論的に説明することに成功した.これにより従来無視されてきた確率的な効果の重要性が明かになった.
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