アコヤガイの摂食過程を始点とした内湾の一次生産機構を明らかにすることが本研究の目的であった。得られた結果は以下の通りであった。1)挿核アコヤガイの植物プランクトン摂食量は夏でクロロフィルa換算で、約0.11μg/時間/貝重1gであった。2)1年2カ月挿核アコヤガイの海水濾過量は、夏で約17リットル/時間/1個(43g)であった。3)外洋の海水が内湾へ侵入することによって起こる植物プランクトンの増加、いわゆる「ポンプアップ機構」による植物プランクトンの増加は、水深5mでは0.5μgCh1-/l(1994年8月8〜9日)であった。4)「ポンプアップ機構」により生産された植物プランクトンの量から、アコヤガイの植物プランクトン摂食量を差し引いた結果、「アコヤガイは植物プランクトンを摂食によって減少させるだけではなく、濾過海水を多量に作り出し、この濾過海水が植物プランクトンを増殖させ、結果的に"摂食圧緩和効果"を作り出している」という仮説が導きだされた。5)アコヤガイの濾過海水は植物プランクトンを増殖させ、濾過海水中のPO4-PおよびNH4-N濃度を高めた。6)アコヤガイに濾過されていない海水にアコヤガイ濾過海水と栄養塩濃度が同じになるように栄養塩を添加し、栄養塩添加海水とアコヤガイ濾過海水の両者を用いて、植物プランクトンの増殖を調べた結果、アコヤガイ濾過海水で著しい植物プランクトンの増殖がみられた。このことからアコヤガイの濾過作用が、栄養塩以外の増殖物質を産生していることがわかった。 アコヤガイは植物プランクトンの現存量を摂食によって減少させるだけではなく、濾過海水を多量に作り出すことによって、植物プランクトンの増殖環境を自ら作り出している。この"摂食圧緩和効果"は生態学の重要課題である共存促進機構の一例としても意義があり、新しい捕食・被食関係を提案することにもつながった。
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