研究概要 |
寄生者はその棲み場所とエネルギー源を寄主に依存して暮らしている.もし,寄生者がその寄主を激しく搾取するならば,寄主をやせ細らしたり殺したりすることによって自らも壊滅する危険が生じる.それゆえ,寄生者は最大限に寄主をいじめることはないと言われることが多い.実際,病原ウイルスの寄主にたいする病毒性が時間とともに減少していく過程も観察されている.中でも,オーストラリアの農業害獣であるウサギを減らすために導入されたウイルスが,その病原性(感染ウサギ個体の死亡率)が年の経過とともに低下したのは有名な話である.しかしながら,多くの寄生生物や病原菌がその寄主にかなりの負担をかけ続けているのも疑いのない事実である. 様々な病気の病原体の感染経路を比較すると,親から子への垂直感染が病毒性の程度と大きく相関している.つまり,垂直感染が主な経路である病気の症状は軽く,他個体にランダムに感染していく病気ではその症状が重いという傾向がある.貧栄養の植物の汁を吸って生きている昆虫は,共生者として栄養分の再利用を助けるバクテリアを持っている.これらのバクテリアは,菌細胞という特別の細胞の中に収まっていることが多く,卵に感染することによって完璧に親から子に伝えられる.シロアリの消化を助ける腸内微生物も糞食という手段によってコロニー内の仲間に伝えられる.このような垂直感染が,緊密な相利共生の進化とどのように関わってきたのかを分析するため,数理モデルを作った。結論としては,病毒性を減らして共生者に進化する寄生者もあるが,寄主を激しく搾取し続ける寄生者もいるということが分かった.
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