研究概要 |
昨年度と同様に、北海道・大雪山の亜寒帯林、北海道・芦別の遷移初期の若いダケカンバ林、東京都・三宅島の照葉樹林において各固体のサイズ(胸高直径と可能な固体では樹高も)の継続測定を行った。大雪山・亜寒帯林のトドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、ダケカンバ、ナナカマドおよびオガラバナの稚樹の移入過程と林分構造(上層木の胸高直径の変動係数)、倒木の現存量、林床のササの被度などの要因との関係をパス解析を用いて解析した。その結果、それぞれの種の移入過程には固有の要因の組み合わせがあることが判明した。また、大山のブナが優占する冷温帯林において、上層木固体の胸高直径の生長のデータと各種間の競合様式との関係を拡散方程式モデルで解析した結果、主要樹種8種間のうちで種間競合関係が見られたのはブナとコシアブラおよびブナとイタヤカエデの2例のみであった。さらに、樹高と幹直径を独立変数とする拡散方程式モデルに群落光合成モデルを組み合わせたモデルを用いて,固体の樹形構造と光合成産物の分配関係が光をめぐる強い競合状態にある同齢林(遷移初期のダケカンバ林のような)の群落構造動態に及ぼす影響を理論的に解析した。その結果,群落構造に大きく影響を及ぼす因子は光合成産物の分配関係ではなく,個体の樹形構造であることが理論的に示された。特に、ダケカンバのような広葉樹で個体の上部に葉が集まっている個体群は強い非対称的競合を示し,平均樹高-平均幹直径関係が曲線的になり,樹高のサイズ分布は二山形になることが示された。これらの結果は芦別・遷移初期のダケカンバ林で得たデータとよく合致している。以上より、決定論的な個体間競合の影響は遷移初期や生長段階の初期に強く現れ、それ以降では非決定論的な要因が群集動態を支配しているという昨年度の予測がさらに実際のデータ解析と理論モデルによる解析で裏付けられた。
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