平成7年度と同様の野外での継続測定を行った。さらに、本年度は次のような数理モデルによる理論的な研究も行った。2次元の格子上に各植物個体が配置され、隣接個体間で競争を行いながら各個体が成長するというモデルを用いて、個体間競争の様式が植物群集の空間分布パターンの動態に及ぼす影響を理論的に調べた。このモデルでは、競争のない状態では各個体はロジスティック成長を行うが、隣接する8個体のサイズの影響を受けて生長率が減少する(隣接個体間の競争の効果)。個体間競争の様式には「対称的競争(二方向的競争)」と「非対称的競争(一方向的競争)」を仮定した。その結果、以下のことが理論的に明らかとなった。 1自然の攪乱などによるギャップ形成が空間分布パターンの動態に及ぼす影響は対称的競争下にある植物群集の方が非対称的競争下の植物群集よりも大きい。 2亜高山帯のシラビソ・オオシラビソ林では、風による攪乱によって形成される空間分布パターンの「縞枯れ現象」がしばしば観察されるが、これは対称的競争下の植物群集でより顕著に現れる。 昨年度までに本研究で得られた結果によると、シラビソ・オオシラビソ林における個体間競争様式は対称的であり、上記2の理論的結果を支持している。また、亜高山帯のダケカンバ林は「縞枯れ現象」を起こさないが、これは非対称的個体間競争を行っている。(昨年度までの本研究の結果)からであると考えられる。また、上記1の理論的結果は保存林などの面積を決定するときには個体間競争様式も考慮しなければならないことを示唆している。以上のように、個体間競争様式、空間分布パターン動態、森林の維持機構は密接に関係しており、今後は以上の理論的結果をもとに実際の野外での調査結果をより詳しく解析する予定である。
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