以下の森林植物群集で、各個体のサイズ(胸高直径と樹高)を測定した。北海道・大雪山・然別湖周辺の亜寒帯林(トドマツ、エゾマツ等)、東京都・三宅島の照葉樹林(スダジイ、タブ等)、信州・北八ヶ岳の亜高山帯林(シラビソ、オオシラビソ)、北海道・芦別の若いダケカンバ林。芦別だけが遷移初期の林でそれ以外は遷移後期の林である。これらのデータを「拡散モデル」(Hara 1984)により解析した結果、(i)北海道・亜寒帯林の上層木間では個体間競争の顕著な効果は見いだせなかったが、稚樹間では比較的強い競争の効果が見られた。また、各樹種の稚樹の移入過程には林分構造、倒木の現存量、林床のササの被度などの要因の固有の組み合わせが影響していることが判明した。(ii)亜高山帯林の上層木間では生長速度にたいする種差は認められなかったが、稚樹間では種差が認められた。(iii)ダケカンバ林では上層木間でも強い個体間競争の影響が認められた。(iv)個体の樹形構造と光合成産物の分配関係が、同齢林の群落構造動態に及ぼす影響を理論モデルで解析した。その結果、群落構造に大きく影響を及ぼす因子は光合成産物の分配関係ではなく、個体の樹形構造であることが示された。ダケカンバのような広葉樹で個体の上部に葉が集まっている個体群は針葉樹よりも強い非対称的競合を示すことが明らかとなった。(v)自然の攪乱などによるギャップ形成や「縞枯れ」が空間分布パターンの動態に及ぼす影響は対称的競争下にある植物群集の方が非対称的競争下の植物群集よりも大きいことも理論モデルにより明らかとなった。(vi)以上より、決定論的な個体間競合の影響は遷移初期や生長段階の初期に強く現れ、それ以降では非決定論的な要因が群集動態を支配しているということが実際のデータ分析と理論モデルによる解析で明らかとなった。以上のように、個体間競争様式、空間分布パターン動態、森林の維持機構は密接に関係している。
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