オナジマイマイとウスカワマイマイの2種について、分泌物質による成長阻害および捕食による種間干渉の効果を実験的に測定した結果、第一に、これらの干渉が2種間で対称的には生じないこと、すなわちオナジマイマイがウスカワマイマイに対して成長阻害および捕食のいずれによる種間競争においても、優位であることが統計的に検証された。第二に、優位の種による干渉は、これまで劣位の種が破る負の効果により認識されてきた。ところが、本実験系では、その負の効果をもたらすことでオナジマイマイが相対的に優位であるだけではなく、ウスカワマイマイと共存することで正の効果(高成長率および低共食い率)を積極的に享受することが証明された。種内競争(密度効果)は、ウスカワマイマイでは統計的に有意ではないのに対し、オナジマイマイでは顕著に生じる。その結果、一定の個体密度においては、オナジマイマイは、全個体がオナジマイマイであるよりもウスカワマイマイがその中に含まれるほうが密度効果が低く、そのため成長率が促進されると考えられる。 成長阻害による干渉については、個体の遺伝的成長率と阻害効果の高さに正の相関があることが統計的に確認された。実験条件下では、成長率の個体変異が著しく、特に成長が遅い個体ではアレロパシーの効果はほとんど検出されない。つまり、自然の集団では生存しえない低成長率の個体については検出可能な阻害効果が生じないのに対し、高成長率の個体に対し統計的に有意な阻害効果が生じることが判明した。人工的に制御した同一の環境条件下で生育したきょうだい個体を比較した点で、問題の成長率変異の大部分は遺伝的であると考えられる。したがって本研究結果は、成長率の遺伝子型と種間干渉効果との間に実験的に検出可能な相互作用が存在することを強く示唆している。
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