研究概要 |
地下茎やストロンを分岐させ、その先に娘個体(ラメート)を形成する植物では、ひとつの親個体から生じた娘個体が全て同じ遺伝子型をもつため、クローナル植物とよばれる。このようなクローナル植物の遺伝的な構造が、その個体群の動態にどのように関与するかを明らかにするため,本研究ではPCR法によるDNA解析の手法を用いて、栄養生殖を行うコウボウムギ個体群の遺伝的構造を明らかにし,このような遺伝的な入れ子構造をもつ固体群の動態を、マトリックス・モデルを用いて解析する。 コウボウムギ個体群の調査区において、個々のシュートの成長と生存の調査を継続した。開花期に雄株と雌株の割合や空間的な分布を調査し、雌株の個体数とサイズにもとづいて種子生産量を推定する回帰式を求めた。ラミート(シュート)ごとに出現した時のサイズと生育終了時のサイズとの間の推移確立行列を求めた.親のサイズに依存して,生産される嬢ラメットの数(行列の各列の合計値)は増加した.また,嬢ラメット個体群のサイズ分布は安定サイズ分布に近く,各サイトにおける安定状態での個体群増殖率は,0.9〜1.4/yearであった. 1994年8月から10月にかけて、北海道留萌市、青森県八戸市、新潟県新潟市、および茨城県波崎町の海岸において、コウボウムギの成熟種子を採集した。採集した種子は、精製後冷蔵庫に4℃で乾燥状態で保管した.精製したコウボウムギ種子を、採集地別に濃硫酸で20分間処理、蒸留水で洗浄した後、4℃で3週間令湿処理を行った。その後これらを25℃、14L/10Dの条件下で発芽させ、25℃、14L/10D、光強度400μmol/m-2s-1で1ヶ月育成した。育成後、苗の全ての葉を採集地別、個体別に採集した。採集後-80℃で保存したコウボウムギの葉より、Rogersらの方法により採集地別、個体別に全DNAを抽出し、7Nの食塩水に浸して冷蔵庫に保管した。
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