研究概要 |
地下茎やストロンを分岐させ、その先に娘個体を形成する植物では、ひとつの親個体から生じた娘個体が全て同じ遺伝子型をもつため、クローナル植物とよばれる。このようなクローナル植物の遺伝的な構造が、その個体群の動態にどのように関与するかを明らかにするため,本研究ではPCR法によるDNA解析の手法を用いて、栄養生殖を行うコウボウムギ個体群の遺伝的構造を明らかにし,このような遺伝的な入れ子構造をもつ個体群の動態を、マトリックス・モデルを用いて解析する。 1994年8月から10月にかけて、北海道留萌市、青森県八戸市、新潟県新潟市、および茨城県波崎町の海岸において、コウボウムギの成熟種子を採集した。これらの種子由来の苗のから全DNAを抽出した。この全DNAをPCR法により増幅した。増幅後のDNAを電気泳動にかけて分別した後、紫外光下で泳動ゲルの写真を撮り、バンドパターンを記録した。まず、バルク法により、すべてのサンプル植物のDNAの混合液を、個々のプライマーすべてを用いて増幅したのち、電気泳動にかけ、DNAバンドの有無をもって、プライマーの有効性を確認した。その結果、G9、G10、G12、R4、R8、R15の6つのランダムプライマーについて、多数のDNAバンドが確認された。すなわち、この6つのランダムプライマーの、コウボウムギ全DNA増幅に対する有効性が確認された。次に、この6つののランダムプライマーを用いてコウボウムギのDNA解析を行ったところ、地域間差をあらわす顕著なRAPDマ-カとなるようなDNAバンドは見られなかった。しかし、一部の個体で、RAPDマ-カとなる可能性の高いDNAバンドが検出された。つまり、RAPD法で見る限り、日本国内のコウボウムギの遺伝的変異法は、地域間差よりも地域内の個体間差のほうが大きいことが示唆された。
|