1.ラン藻Synechococcus PCC7942 の硝酸イオン能動輸送に関わる4つのタンパク質のうち、細胞脂質の主要タンパク質であるNrtAの具体的機能を解析するため、まず、硝酸同化系遺伝子群から成るオペロンからnrtAのみを除去した変異株dAを作製した。dAが硝酸イオンを細胞内へ取込めず、亜硝酸イオンの取込み速度も著しく低下していること、dAにベクターを用いてnrtAを再導入すると硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの取込み活性が野生株のレベルに回復すること、の2点を示して、NrtAが硝酸イオン/亜硝酸イオンの両方の輸送に関与することを明らかにした。 2.NrtAはN末端部にシグナルペプチド様の配列をもち、その推定切断部位近傍のアミノ酸配列は、細菌の細胞表層部のリポタンパク質の共通配列に合致する。そこで、リポタンパク質のシグナルペプチドの切断を阻害するグロボマイシンの効果を調べ、この薬剤が成熟型NrtA(見かけの大きさ45kD)の蓄積を阻害し、前駆体と推定される48kDポリペプチドの蓄積を引き起こすことを示して、NrtAが細胞質膜の外側にあるリポタンパク質であることを明らかにした。 3.N末端のシグナルペプチドとそれに近接した疎水性領域を欠くNrtAを大腸菌に大量発現させて可溶性タンパク質として精製し、これを用いた平衡透析法による解析から、NrtAが硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを強く結合することを示した(Kd<1μM)。 4.以上の結果から、NrtAは細胞質膜の外表面に結合しているリポタンパク質であり、硝酸イオンと亜硝酸イオンを強く結合する能力をもっていて、基質結合タンパク質として硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの能動輸送に関与するものと結論した。
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