研究概要 |
黄色植物の光合成では光は主としてcarotenoidによって吸収されるが、この系におけるcarotenoid chlorophyll間のエネルギー転移機構をその分子構築との関連で解明する目的で、黄色植物の光捕捉蛋白についてcarotenoidの選択的な除去と再結合系を構築すべく以下のような試みを行った。 褐藻の光捕捉系から精製したfucoxanthin-chlorophyll蛋白では分子量2万の蛋白にfucoxanthin 4分子、chlorophyll a 4分子、chlorophyll cを結合しているが、この標品を凍結乾燥で無水状態に誘導し、無水のdiethyl etherで処理することによって、蛋白に結合する色素のうちfucoxanthin 3分子を除去できることがわかった。得られた標品はfucoxanthin 0.7-1.1分子、chlorophyll a 2.3-3.2分子、chlorophyll c 0.8-1.4分子を結合しているが、この状態では色素間のエネルギー転移はchlorophyll aからaへのそれを含めてほぼ完全に停止している。この蛋白を表面活性剤の存在下で懸濁し、fucoxanthinを添加し、室温で放置すると、添加したfucoxanthinの量に伴って再結合産物が生成し、fucoxanthinからchlorophyll aへのエネルギー移動の部分的回復が認められた。これに伴って、fucoxanthinの吸収域に特有の円二色性スペクトルが出現し、同時にchlorophyll cからchlorophyll aへのエネルギー移動も見られるようになり、fucoxanthinの蛋白への結合が蛋白分子の構造を変化させていることが解った。 Fucoxanthinのかわりに他のcarotenoidをこの系に添加した実験では、β-carotene,zeaxanthinは蛋白との結合は弱かったが、エネルギー転移活性がわずかに観察された。しかし、このエネルギー転移活性は円二色性スペクトルなどの知見やchlorophyll cからaへのエネルギー転移の回復などを考慮すると、除去されずに蛋白に結合していたfucoxanthinからchlorophyll aへのエネルギー転移が回復しただけである可能性もあり、再検討する必要が残っている。一方、渦鞭毛藻の光捕捉系のperidininや脱acetyl化したfucoxanthinは蛋白との結合はfucoxanthinほど強くはなかったが、エネルギー転移活性はfucoxanthinと同程度に観察され、carotenoidからchlorophyll aへのエネルギー転移におけるcarotenoid分子種の特異性は比較的小さいことが解った。
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