植物におけるインドール-3-酢酸(IAA)の生合成については、代謝経路すら未確定な段階にある。これまで一般的にTrpを前駆体として合成されると考えられてきているが、最近トリプトファン(Trp)からのIAAの合成に否定的な結果も報告されている。申請者は、すでにトウモロコシ幼葉鞘先端部切片でのTrpからのIAAの生成系の存在を明らかにするとともに、TrpからIAAを生成するin vitro の酵素系を検出した。本研究計画では、この反応に関与する可能性が高い酵素であるインドールアセトアルデヒド(IAAId)酸化酵素(AO)に焦点をあて、この酵素の精製と性質の検討、抗体の作成、さらにcDNAの単離することを目的として研究を進めている。 その結果、本年度の研究において次の様な成果が得られている。 (1)トウモロコシ幼葉鞘から、本酸素を電気泳動的にほぼ単一になるまで精製し、その標品およそ100mgをマウスに免疫し特異性の高い抗血清を得ることに成功した。この抗AO血清を用いたWestern blottingにより、本酸素が幼葉鞘の先端部に比較的多く分布することが明らかになった。 (2)精製標品をSDS電気泳動後、得られるメジャーなバンドについて、アミノ酸配列の一部を決定した。 (3)本酸素の基質特異性を、さまざまなアルデヒドやIAAに関連する物質について検討を加えているが、IAAIdおよびインドールアルデヒドに対する親和性の高い酵素であることが明らかになっている。 こうしたことから、in vivo のトレーサー実験の結果に加えて、本酵素がトウモロコシ幼葉鞘において実際にIAA生合成に働いている可能性がより強くなってきている。また、抗体およびアミノ酸配列に関する情報が得られたので、平成7年度に計画されているcDNAの単離は予定通り遂行できることが明確になった。 (研究成果は、一部は植物化学調節学会年会(1994年10月)、植物生理学会年会(1995年3月)に発表、論文は作成中である。)
|