1.ナタネのCDP-コリン合成酵素(CCT)をコードするcDNAを、酵母のcct変異株の栄養要求性の相補を指標にしてクローニングした。その結果、4種類のCCT(CCT1、CCT2、CCT3およびCCT4)をコードするcDNAが得られた。ナタネCCTの推定アミノ酸配列をKite&Doolittle(1982年)のアルゴリズムで解析した結果、他生物由来のCCTと同様に、全ポリペプチド領域にわたり親水性であることが示唆された。しかし、CCT1cDNAを酵母中で発現させると、活性のほとんどがミクロソーム画分に回収されたことから、CCT1は酵母細胞では(また、おそらく植物細胞においても)膜画分に移行する可能性が示唆された。 ナタネの器官におけるCCT1の発現をノーザンハイブリダイゼーション法により調べた。CCT1のmRNA発現レベルは、胚や根で高かったが、成熟葉ではほとんど発現がみられなかった。この結果は、成熟葉のホスファチジルコリン(PC)の代謝回転が常温では非常に低い可能性を示唆している。 今後の展望:(成熟)葉におけるCCT遺伝子発現(転写)が低温やその他の因子によって再び活発になる時期や条件をCCTを用いたノーザンハイブリダイゼーション法により検索する必要がある。また、CCTを過剰発現した形質転換植物を作成することにより、PCと凍結耐性の因果関係を検証したい。植物のPC代謝回転は、糖脂質合成の盛んな葉や貯蔵脂質生合成の盛んな胚などの器官で高く、PCは、これらの脂質の生合成中間体としての生物学的意義が注目されてきた。今後は、CCTの遺伝子発現レベルを種々の条件下で詳細に検討することにより、PC代謝回転の生合成以外の生物学的意義を明らかにしたいと考えている。
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