(1)ソテツ卵をモデル植物として、「精核受容装置」の固体発生と挙動: 中央細胞の核が核分裂すると、腹溝細胞核と未熟卵細胞核にわかれ、両者の間に仕切りが形成され腹溝細胞と卵細胞にわかれる。しかし、腹溝細胞は多くの場合そのまま崩壊してしまい、造卵器内には未熟卵細胞だけが残る。腹溝細胞の崩壊してできる間隙は、後に侵入する精子の遊泳場所となり、卵細胞との融合のための定位に役立つ。腹溝核とわかれた直後の未成熟卵核のサイズは小さいが、卵細胞の中央に向けての移動開始とともに急速に拡大し、それとともに精核受容装置の分化が始まる。「精核受容装置」の基本構造は、核包膜が涙滴状に変形した卵核の側面で陥入したものである。核包膜の内膜はさらに密な襞状となって陥入している。中央に達した卵核は再び球形に変化し、受容装置は精子侵入口側、すなわち頚溝細胞に面した側に位置を変える。精核はこの窪みに入り込み、核融合を開始する。 (2)「精核受容装置」の植物界の卵における出現・分布について: 非鞭毛性精細胞を産生すスギ(Cryptomeria japonica)の受精過程をテクノビット樹脂包埋法による詳細な組織学的解析を行なったところ、本植物の卵核にはソテツ卵核に分化する精核受容装置の分化は見られなかった。精細胞核と卵核はかなり広い面で会合するだけであった。しかし、文献調査解析によれば、マツ属(Pinus)の卵には同装置の分化する可能性が示唆された。
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