平成6年度は、3歳から32歳までの乳児を保育していないメスニホンザル合計約45頭から、それぞれ週1-3回の採血を行い、血中ホルモン動態の年齢変化ならびに季節変化を調べた。その結果、20歳頃から不妊となる個体が増加するが、20歳台前半のサルでは、過去数年以上不妊であっても、卵巣機能はほぼ正常に維持されていること、閉経症状は、寿命とほぼ等しい20歳台後半になって初めて現れること、血中LH濃度は、閉経前のサルでは年間を通じて安定しているが、閉経後は繁殖期に高く、非繁殖期に低い明瞭な季節変化を示すことなどが分かった。さらに、エストロジェンのネガティブフィードバック作用に対する視床下部-下垂体系の感受性が加齢に伴ってどのように変化するかを調べるため、成熟期のサルと閉経期のサルにestradiol benzoate(EB)を投与した。結果は、両群とも同様な時間経過でLHサージが観察され、視床下部-下垂体系は閉経後もほぼ正常であることがわかった。 これらの結果は、ニホンザルでもヒトと同様に高血中のゴナドトロピンを伴った閉経症状がみられることを示している。しかし、ヒトでは閉経後の血中LHが季節に関係なく高値を示すのに対し、閉経ニホンザルでは、血中LH濃度に明瞭な季節差がみられるなど、季節繁殖動物であるニホンザルの繁殖特性を考える上で、大変興味深い結果である。おそらく、閉経後のように卵巣機能の極度に低下した状態は、成熟個体の卵巣を摘除してごく少量のエストロジェンを補った状態に近くなっているのに対し、視床下部-下垂体系のエストロジェンに対する感受性は加齢とともにあまり変化しないためと考えられる。
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