本研究では、単細胞性で、種々の生理的および遺伝的解析の方法が発展してきた酵母(C.albicansを主とする)を研究材料とし、本研究者が発見した、集落形態高頻度変異現象と倍数性変換に注目し、それが結果としてもたらす集落形態変異との因果関係を染色体およびDNA分子のレベルまで堀り下げて、(1)何が染色体再配列を引きおこすのか、(2)倍数性変換をもたらす因子と染色体再配列を引き起こす遺伝子とその働きとはどのような関係にあるか、の二点を明らかにした。(1)に関しては、染色体上の再配列した領域を明らかにするため、アデニンの要求性変異ADE1が同型接合のときには、集落が赤色となり、野生型ADE1と異型接合であれば集落がピンク色となり、野生型の同型接合では白色の集落となる変異株を利用した。集落の色の異なる変異体クローンについて、その染色体のSfi|制限酵素断片やHpa|制限酵素断片と、rDNA遺伝子およびADE1遺伝子とのハイブリダイゼーション実験をそれぞれ行った。その結果、ADE1とrDNAの乗ったR染色体では、半数体性(モノソ-ミック)の状態を経由することによって、遺伝子突然変異が直ちに表現型として発現すること、モノソ-ミックな状態からダイソ-ミックな状態への移行過程があり、さらに一方の染色体での遺伝子突然変異が起きて異型接合性となり、次に変異型遺伝子か、野生型遺伝子かのいずれかが同型接合となる接合性の変化が起こるというプロセスが明らかとなった。(2)に関しては、倍数性変換を高頻度で行う突然変異体STN21株をC.albicans標準株より分離した。この変異体では、染色体5番、7番が高頻度にサイズ変化した。特に7番染色体ではその中央部分が組換えをおこし、染色体サイズ変化をきたすことが明らかとなった。表現型を野生型にもどす遺伝子(PLDと本申請者が命名)の遺伝的相補試験を行う実験系を、細胞融合を利用して構築した。その結果、C.aibicansの倍数性の制御に関わる遺伝子座が少なくとも二種類あることがわかった。
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