マウス脳下垂体前葉細胞の増殖におけるインスリン様成長因子Iの生理的意義の解析

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06640866
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 高橋 純夫 岡山大学, 理学部, 助教授 (90144807)
• キーワード: 脳下垂体 / インスリン様成長因子 / 細胞増殖 / マウス

研究概要

本研究は、脳下垂体前葉に存在するインスリン様成長因子I(IGF-I)の生理作用を明らかにすることが目的である。本年度は、in vitro系を用いて、インスリンおよびIGF-Iの細胞増殖作用について解析を進めた。インスリンおよびIGF-Iによる細胞分裂促進作用には前葉細胞の細胞特異性が認められ、前葉のプロラクチン産生細胞の増殖は促進するが、成長ホルモン産生細胞には無効であることがわかった。両細胞以外の細胞種未同定の細胞も増殖することがわかった。さらに、チロシンキナゼ-ゼの阻害剤であるGenisteinが、細胞増殖を抑制することからチロシンキナーゼが細胞増殖機構に関与することがわかった。前葉のIGF-I含有細胞を免疫組織化学的に同定したところ、成長ホルモン産生細胞の一部がIGF-Iを含むことを明らかにした。前葉中にIGF-IのmRNAを検出できた。さらに、発情ホルモン投与によりIGF-IのmRNA量が増加したことから、IGF-Iの合成がIGF-I遺伝子の転写レベルで高まることを示した。発情ホルモンは、前葉細胞の増殖を促進する。前葉細胞の無血清単層培養系において、IGF-I含有細胞の近傍に細胞分裂細胞が存在することを観察した。以上の結果から、前葉IGF-I(含有)産生細胞から放出されたIGF-Iが、傍分泌的に作用して近傍の前葉細胞(プロラクチン産生細胞など)の分裂を刺激する機構の存在が示唆された。In vivo系において発情ホルモンによる細胞増殖にはインスリンが必要であることを明らかにした。これは、インスリンによる(たぶんIGF-Iも)細胞増殖系と発情ホルモンによる細胞増殖系との間に、「クロストーク」機構の存在する可能性を示唆している。

研究成果

• [文献書誌] Iga,C.: "Experimental manipulation of pituitary hemorrhage induced by intraperitoneal injection of a hypertonic solution in mice." Zoological Science. 11. 101-106 (1994)
• [文献書誌] Takahashi,S.: "Proliferation of pituitary cells in streptozotocin-induced diabetic mice: effect of insulin and estrogen." Zoological Science. 11. 445-449 (1994)
• [文献書誌] Takahashi,S.: "Decreased proliferation of pituitary cells in streptozotocin-induced diabetic rats in response to estradiol-17β." Acta Anatomica. (in press). (1995)
• [文献書誌] Takeuchi,M.: "Effect of hypoglycemic stress on the pars intermedia of the mouse pituitary gland: An ultrastructural analysis." Zoological Science. 12(in press). (1995)
• [文献書誌] Yoshikawa,M.: "Characteristics of prolactin secretion in normal and estrogen-treated pituitaries of rats at the single cell level-Analysis by reverse hemolytic plaque assay." Endocrine Journal. 42(in press). (1995)
• [文献書誌] Takahashi,S.: "Development and heterogeneity of prolactin cells." International Review of Cytology. 157. 33-98 (1995)
• [文献書誌] 高橋純夫: "生物科学の基礎" 培風館, 207 (1995)