筋収縮の素家庭であるアクトミオシンの相互作用の力学的・エネルギー論的性質を知るためには、負荷の大きさ(力)と作用速度の関係(力-速度関係)を知る必要がある。本研究は、筆者らがこれまで用いてきたinvitro再構成運動系(軟体動物平滑筋より単離した太いフィラメントをマイクロビーズに貼り付け、車軸藻アクチンケーブルの上を滑走させるもの)の滑り運動を様々な力学的環境下で観察し、特に速度が負、および力が負の領域でのアクトミオシン相互作用の力-速度関係を直接調べることを目的として行った。荷重の負荷および滑り運動の観察は遠心顕微鏡を用いて行ったが、特に本年度は、遠心顕微鏡のローターにランプ状の電位変化を与え、荷重を連続的に増大させた時の滑り運動の一過的な変化を観察した。結果は以下の通りである: 1)この再構成運動系は、遠心顕微鏡を用いて定常状態の正の荷重をかけると、筋線維が通常示す力-速度関係にきわめて類似する力-速度関係を示した。 2)荷重が等尺性最大張力を超えると、逆方向の滑り(負の速度)が観察され、筋を伸張した時に見られる大きな張力発揮が、アクトミオシンクロスブリッジによることが示唆された。 3)負の荷重下では、滑り速度が無荷重最大滑り速度の2倍程度まで速やかに増大してプラトーに達した後、再び増大するという2相性の変化を示すことが分かった。このような挙動は、滑り運動中のアクトミオシンの相互作用の律速過程が荷重に依存し、その速度が負の荷重によって加速されうることを示唆する。
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