本研究は、雄コオロギが1性周期のうちに示す行動切り替えの神経機構を明らかにすることである。雄コオロギの行動は、1)交尾によって精包を放出した後と2)、1)に続いて次回の交尾のための精包準備行動を起こしてから約1時間後、これら2つの時点で切り替わる。1)では求愛から威嚇へ、2)では威嚇から求愛へ行動が変わる。これら1)と2)は、雄の最終腹部神経節(TAG)で何らかの変化が生じることが前提であり、実際の変化にはTAGからの情報が脳に伝わることが必要である。今回、除脳雄を用い、拘束条件下で、TAGから脳へ上行する神経活動を片側縦連合から吸引電極により長時間記録した。 1.精包放出前後:断頭して固定した雄の生殖器を刺激して、精包を放出させた。精包放出後、全標本(n=33)のうち約27%において、多くのニューロンのスパイク活動が低下し、10数分後、しだいに回復していった。 2.精包準備行動前後:精包放出直後、多くのスパイク活動はバースト状であったが、約1時間後、求愛期に相当するとみられる時期に入ると、活動は規則的となった。 以上より、雄コオロギの性行動の変化にともなって、TAGの神経活動に変化が生じていることが明らかになった。
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