本年度は、農家から大量のカイコガの蛹(約12万頭)を購入し、羽化した成虫から解剖によって脳-食道下神経節複合体を集めた。集めた脳-食道下神経節複合体から、従来の方法によって夏型ホルモン活性物質の粗抽出液を作製し、精製を試みた。精製はSephadex G-50カラムによるゲル濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー等の方法によって行った。特に精製の各過程では、カイコガ成虫の脳内に共存し、夏型ホルモル活性物質とその物理化学的性質が非常に良く似ているbombyxinが夏型ホルモン活性物質と分離されているかどうかを調べた。精製の各段階で得られた夏型ホルモン活性分画の前胸腺刺激ホルモン活性を、カイコガ4令幼虫の培養前胸腺を用いた方法によって定量した。その結果、夏型ホルモン活性物質が陰イオン交換体に吸着されるのに対して、bombyxinが陽イオン交換体に吸着されることを見い出した。その後、夏型ホルモン活性物質の粗精製分画を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけるよって、夏型ホルモン活性物質とbombyxinを分離することに成功した。また、今回の研究で得られた最終分画をSDS-PAGEにかけ、銀染法で染色したところ、そのレーンには一本のペプチドノ染色バンドが認められ、そのペプチドの分子量は夏型ホルモン活性物質と同じ4-5kDであると推定された。しかし、今回の精製では、活性物質のイオン交換クロマトグラフィーと、逸れに続く脱塩操作の際の回収率が低いために、その一次構造を部分的に決定するために必要な量の標品を得るには至らなかった。
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