研究概要 |
環形動物の細胞外ヘモグロビン(Hb)は分子量4×10^6に及び巨大なタンパク質で、Hb分子の進化の1極をなしている。本研究は、環形動物Hbの巨大化の要因を探ることが目的である。このHbは"12{4(a・AbB)・L_2}"と表せるとする説が有力である。a,A,b,Bは酸素を結合するグロビン鎖で、Lはリンカーと呼ばれる非ヘム蛋白である。グロビン鎖の纏め役をしているとみられるリンカーとグロビン鎖の塊との間に働く結合の種類が問題である。最近、リンカーのアミノ酸配列から判断して、イオン結合が重要な役割を担っているとする説が提唱されている。 私達は、たまたま巨大Hbが蔗糖溶液中でHbが崩れることを電顕で観察した。そこで、種々の単糖を用いてHbの解離に与える影響を検討したところ、Hbがより小さい顆粒になって分散するタイプと天然の6角柱の形が崩れて、会合体を作るタイプがあることが明らかになった。また、この2つの型を決める単糖は、レクチン活性を阻害する単糖の種分けにぴったり符合していた。このことは、リンカーとグロビン鎖との間にレクチン様の結合が存在するを示唆している。レクチンは赤血球の糖鎖との間に複雑な水素結合を結成する。既知のリンカーのアミノ酸配列と相同なレクチンを検索したところ、小麦胚芽のレクチンと極めて相同性の高い部分があることが明らかになった。しかも、リンカーのその部分はシステイン残基に富み、レクチンの活性中心と同じ場所に同じアミノ酸残基を含んでいることが明らかになった。また、リンカーとグロビンaとAに糖鎖が含まれることを見いだした。以上の結果から、環形動物の細胞外Hbが巨大化する要因の一つとして、リンカーとグロビン鎖間のレクチン様の結合が関与していることを推定した。結果の一部はGordon会議で発表した。論文は投稿中である。
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