研究概要 |
硬骨魚の色素胞の運動制御におけるエンドセリン(ET)類の関与についての一連の研究のうち,ET-1の、ゼブラフィッシュなど数種の黒色素胞に及ぼす効果についてはすでに報告したが,今年度はET-2,ET-3のメラニン顆粒凝集作用を検出できた.これらのメラニン凝集効果はET-1の場合とほぼ同様に非常に強力であったが,その効果はET-1と同様に一過性のものであった.哺乳類のET_A受容体の特異的阻害剤であるBQ-123はET類の色素凝集作用を阻害しなかったが,最近開発された同じ系列のET_Aの受容体阻害剤,TTP-386は作用を阻害した.また,哺乳類のET_A受容体には弱い作用をもつのみとして知られているsarafotoxinはかなり強力な色素凝集作用を示した.一方,数種の硬骨魚の赤色素胞,黄色素胞におよぼすET類の作用についても研究を進め,ET-1の色素凝集作用を検出した.作用はやはり一過性であった.また,アドレナリン受容体阻害剤はこの凝集作用に影響を与えなかった.光散乱性の色素胞である白色素胞については,各種のETに応じての細胞器官(リューコソーム)の拡散を検出した.ET_A受容体の特異的阻害剤BQ-123,アドレナリン受容体阻害剤はET-1の拡散作用には影響を与えなかった.逆にET-2,ET-3の作用については明かな阻害作用を示すという意外な結果が得られた.このように,魚類の色素胞のET受容体の性状についての実験結果は哺乳類のET_Aの場合から予測されるものと大幅に異なったものであった.哺乳類のET_B受容体との類似性の検討は次年次に繰り越されたが,8億年を越える魚類と哺乳類に遺伝子間距離の大きさからいっても性質の類似性は低いものと推察できよう.しかし,ET類の強力な効果から,この類のペプチドが魚類の体色変化の微妙な制御,ことに局所ホルモンとして模様のコントラストの強化などに重要な役割をもつことが推論されるに至った.
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