反復刺激後に神経細胞の反応性が上昇する現象:長期増強(LTP)は、記憶の実験モデルとして注目されている。本研究では、LTPに関連して発現が変化する未知の遺伝子のクローニングを試みる。当初はLTPを確認した単一ニューロン細胞からライブラリを作成することを試みたが技術的な問題から成功しなかった。 近年、テトラエチルアンモニウム(TEA)処理によってLTP類似状態が化学的に誘発されることが報告された。そこでTEA処理した海馬と未処理の脳のメッセージの差分を行って、LTPに関連した遺伝子のクローニングを目指した。その結果、神経細胞に特異的に発現しているクローンを3個程度得ることができた。これらのクローンはデーターベースのホモロジー検索では未知の遺伝子であり、神経活動になんらかの重要な機能を担っていることが期待される。そのなかの一つKW8がコードするアミノ酸配列には、MyoDやNeuroDなど分化関連遺伝子に共通に存在するヘリックス・ループ・ヘリックスドメイン(HLH)が存在した。HLHのアミノ酸配列はほとんど保存されていたが、その前後のアミノ酸配列はこれまでに報告されているHLHタンパク質とは全く異なつていた。HLHタンパク質は転写調節因子して注目されている。KW8とLTPの関係は未だ不明であるが、なんらかの制御因子として、神経活動にともなう重要な因子であることが期待される。平成8年度は、抗血清の作成や培養細胞での過剰発現などによりその機能を検討していきたい。
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