研究概要 |
植物の進化において倍数体や異数体の形成は重要な役割を占め,それに伴い染色体ゲノムはどのように量的あるいは質的変化をとげたのか,また、倍数化により重複したゲノムは保存されているのであろうか。オーストラリアに生育するキク科ブラキスコ-ム属は染色体の数的、構造的変化を伴って、急激な環境条件の変化に適応した形態や生殖様式を生じている。本研究ではこの群の植物を用い、RAPDマーカー法による種間の遺伝的変異を比較するとともに、マーカーとなるDNA分子種の染色体上の位置を比較し、種分化に伴う、ゲノム構成と染色体変化の様相を明らかにすることを試みた。 10塩基の任意のプライマーを用いたRAPDマーカー法は近縁な植物間のゲノム解析の方法として開発されたものである。ブラキスコ-ム属では、この方法により増幅されたDNA鎖の多くは種内で長さの変異が少なく,部分的に塩基配列を決定した結果、これらはリボゾームRNAをコードする遺伝子と推定された。リボゾーム遺伝子群は染色体上では2次狭窄部位や動原体付近に位置しており、種間での比較にはあまり適していない。また、長さが変位するRAPDマーカーもわずかながら得られたが、これらは個体レベルで変化するため適していなかった。現在、この方法と並行して特定の遺伝子の配列の比較解析も行っており、アルコール脱水素酵素遺伝子のイントロン配列には種々のトランスポゾンやSINE因子といった転移因子の配列が認められた。キク科では多くの植物でウイルス感染が知られているが、ブラキスコ-ム属で遺伝子内に転移因子が多数発見されたことは、この群の多様な種分化の機構にウイルスが関与していることが可能性が示され極めて興味深い。また,グリセロアルデヒド-3ーリン酸脱水素酵素遺伝子はミニ多重遺伝子族を形成していると思われ,これらの特定の遺伝子をもとに,現在,染色体のマッピングを試みている。
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