植物の進化において重要な役割を果たす倍数化や異数化により、DNA分子種や染色体構造にどのような変化が生じているかを明らかにするため、半数染色体数がn=2からn=15と変異に富む、キク科ブラキスコ-ム属の植物で解析を試みた。形態、染色体、及び葉緑体遺伝子解析より、近縁と見なされる群のn=9、4、3の種について、植物体より抽出したDNAを鋳型として、PCR法による遺伝的変異解析を行い、以下の結果が得られた。 1.任意配列プライマーを用いたRAPDマーカー法解析では、種間に共通して出現するバンドと種内で変異が見られるものが検出され、種を特徴づけるマーカーは得られなかった。比較した種群でn=9のものは個体間のバンドパターンの変異が少なく、一方、n=4、3のものでは個体間の変異が大きい。 2. adh遺伝子の多型解析では、n=9の種群では増幅された遺伝子断片数が1本で、個体間の長さも変異も認められなかった。一方、n=4、3のものでは3-9本のバンドが検出され、個体間で数や長さの変異が見られ、変異は転移因子に由来すると推定された。 ブラキスコ-ム属ではn=9のものから、染色体の減数したものや異質倍数体が生じたと考えられており、本研究においても染色体数の少ない種群には個体変異が多く、転移因子も認められ、これらの群が比較的最近になって急激に分化しつつあることを示した。また、遺伝子座の数が、乾燥地に生育し、一年生や自殖など派生的な特徴を持つ少数染色体群で多く、染色体数の減少はむしろ遺伝子座の増幅をうながしており、染色体数の変化による種分化が環境適応と深く関連していることを示唆した。
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