研究概要 |
本年度は,本種群中,ヒコナミザトウムシ Nelima nigricoxa の中国地方東部にみられる2n=20,18,16の3つの核型間で交雑個体の精子形成能の比較やミトコンドリアDNAを分子マーカーとする集団間の遺伝的分化の解析によって交雑帯の性質の解明を試みた。まず,2n=18と2n=20の間の交雑帯中ではヘテロ接合の核型である2n=19の個体の出現頻度がHardy=Weinbergの期待比よりも有意に低いので、各核型個体間で精巣のパラフィン切片像による精子形成能の比較をおこなったが、ヘテロ接合の個体における精子形成の異常や低下は全く認められなかった。一方,2n=18と2n=20の個体間で成熟期に若干のずれのあることが示唆された。この交雑帯は選択に関してはほとんど中立であるが、交尾最盛期のズレによって結果的に同類交配の率が高まり2n=19の個体の出現が押えられているのかもしれない。 またmtDNAにおける遺伝的分化の程度を見積もるため,本種の6集団について,Total DNAを精製し、PCR法によりmtDNAのCol(Cytochrome oxidase 1)遺伝子のDNA断片(約1kbp)を増幅した。12種類の制限酵素を用いて,増幅された断片の制限酵素分析を行ったが,今回解析できた制限酵素の認識サイトに関する限り,集団間の遺伝的分化を検出することはできなかった。現在、この増幅された断片の塩基配列の決定を試みており,塩基配列がわかれば外側向きのプライマーを合成し,LA-PCR法によってmtDNAの全ゲノムを増幅し、Col以外の領域における遺伝的分化についても解析する予定である。 また,本種に最近縁のオオナミザトウムシ Nelima genufusca については従来未調査の北陸地方および東海地方の多数の集団についても染色体プレパラートを作成した,現在核型分析中である。また,オオナミザトウムシの能登半島の集団では雄の上唇のサイズに顕著な地理的分化が生じていることが新たに判明した。
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