研究概要 |
ナミザトウムシ種群3種の核型変異の概要を把握する目的で,外群比較用のサトウナミザトウムシ種群の2種(アオキナミザトウムシとサトウナミザトウムシ)を加えた38集団で核型を調査した。その結果,(1)ヒコナミザトウムシの伊豆半島・箱根の集団と本種の最近縁種と考えられる北海道産のエゾナミザトウムシがともに2n=22の核型を示すこと,(2)オオナミザトウムシの北海道と伊豆半島・箱根の集団は2n=22を示すこと,(4)サトウナミザトウムシとアオキナミザトウムシがともに2n=16であることを確認しえた。これらの結果は,ヒコナミザトウムシの核型変異が2n=22から20→18→16の方向へ起こった可能性を強く示唆する。 また,ヒコナミザトウムシの核型の異なる集団間のmtDNAにおける遺伝的分化の程度を見積もるため,本種の6集団について,PCR法によりmtDNAのCo1(Cytochrome oxidase 1)遺伝子のDNA断片(約1kbp)を増幅し,塩基配列を決定した。染色体数が異なる3つの地域集団の間では,310bpの内,6サイトで塩基置換が認められた。これらの塩基置換は,いずれもトランジション型であった。また,置換の起きている部分は,6カ所の内の5カ所がアミノ酸の置換を生じないコドンの3番目の部分であり,1カ所のみがコドン1文字目でセリンからプロリンへのアミノ酸置換を起こしていた。各地点ごとに2個体ずつ塩基配列を決定したが,同じ地域から採集された個体は,いずれも同じ遺伝子型を示し,地域集団ごとに固有の遺伝子型で固定していると考えられた。今回配列を決定した部分では,遺伝子型を区別できる適当な制限酵素サイトがないので,mtDNAの全長を増幅するlong PCRを試みており,今後さらに詳しい集団解析を行う予定である。
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