研究概要 |
平成6年度は,Stereocaulon属地衣類の野外標本中での共生藻の取り込みの多様性を明らかにすることと地衣体再合成の予備実験として地衣体の組織培養を行った.野外からStereocaulon exutum(5標本),S.japonicum(2標本),S.sorediiferum(3標本)を採集し,これらの地衣体の棘枝の部分(primary photobiontとして緑藻類が共生している)から共生藻を分離し,無菌化して細胞形態,生活史を詳細に観察して種の分類学的検討を行った.その結果,Stereocaulon exutumでは,種のレベルではなく属のレベルで異なる3属の緑藻類が1棘枝中から分離された.それらは,Pseudococcomyxa simplex,Palmellococcus reniformis,Trebouxia ericiであった.また,S.japonicumでは異なる2属の緑藻類,すなわちPseudococcomyxa simplex,Trebouxia ericiが1棘枝中から分離された.さらに,S.japonicumでは別の地衣体から緑藻類のChlorella ellipsoideaが分離された.S.sorediiferumからはChlorella ellipsoideaのみ分離された.S.exutumやS.japonicumで明らかにされたような属レベルでの共生藻の取り込みの多様性は,世界からも報告例がなく,まったく新しい知見である.今後は,さらに多くのStereocaulonの種について共生藻の取り込みの多様性を検討する必要がある.地衣体の組織培養では,一部のカルスから地衣体の発生初期段階と考えられる組織が形成されてきているが,藻類の含有量が多く野外のものとはやや組織形態が異なっている.現在,培養基物や温度条件などを検討して正常な地衣体の再分化を検討している.
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